当道場も高校生1名、中学生2名、小学生5名がそれぞれの学校を卒業します。
しかし、ありがたいことに高校生と中学生の卒業生は皆、小学生は5名中4名が稽古を継続していただけるようです。嬉しいですね。
卒業にあたり、今度中学生になる皆さんには、「『中学で親しくなる友人は、一生の友達になれる』と言われています。勉強や部活も大事でしょう‥、しかし、長い人生には、良いときも悪いときも助け合える友人が必要です。心を許せる友人を多くつくって欲しい‥」と伝えました。
うまく伝わっているとよいのですが‥。
さて、それとは別に卒業する皆さんに伝えたいことがあります。
それは、「心に剣を持ってほしい」ということ。
当道場の卒業生には「またか‥」と言われそうですね。
その通り! 今まで様々な機会に話してきたことです。
でも大事なことですので、もう一度聞いて欲しいと思います。
合気道の稽古は、道場だけでなく、社会生活で行ってこそ意味があります。
私は、諸先輩方にそう習いました。
経験上、とても有益であり、皆さんにも知っていてほしいと切に願うものです。
具体的に説明しますが、合気道は、剣の理合を体術に表したものです。
今まで学んだ合気道の剣の理合を社会生活で実践するのです。
社会に出れば、理不尽な仕打ちを受けることや、意地の悪い人との交流も避けられません。正直、辛いことも多々あることでしょう。
我々、武道を学んできた者は、心に剣を持ち、辛いことには心の体捌きで、入身・転換をなしつつ、自身を傷つけない工夫が必要です。これができないと精神を病む場合もあります。
もちろん、社会生活は真剣に送るべきでしょう。しかし、真面目すぎても具合が悪い、嫌な人物との接触は、心の剣で遊んでいる気構えで対処するのです。余計なストレスがなくなり、よいものですよ。
「‥うーん、今日は一本とられた失敗失敗、よし、次は頑張ろう!」
この程度の心境で、相手とのやりとりを楽しみながら社会生活を送るのです。
そして、心は絶対に「居着かない」こと。
「居着く」とは、物理的に動きが鈍っている状態のことです。軽快な歩法・ステップが出来なくなっている状態。
「心が居着く」とは、物事を深く考えすぎて、既に精神を病んでいる状態です。
心の本性は、「コロコロと転がるものだから、心という」、心の居着いた状態は、心が持つ本来の働きを失った状態‥。
こうならないために、心の剣で戦い(社会生活)を楽しむのです。
武道に道具はいらないのです。
「心に剣を持つ!」、これだけで立派な武道家になれます。
さて、具体的には以下のとおり。
『礼』
「立場をわきまえ、不快感を与えないこと」、「形式よりも気持ちが大事」が基本と心得ること。また、社会人としての基本的なマナーを全て一通りは学んでおきましょう。組織に属する者は、いくら実力があっても礼を欠く場合は、現代版の遠島・島送りは当たり前に行われます。
礼を分かりやすく示せば、5つのS、つまり「5S(ファイブエス)」にまとめられます。これは、「スピード、スマイル、誠意、スマート、スタディ」の頭文字のSをまとめたもの。これを軸に仕事に従事すれば間違いなし。誠意が中心にあることを忘れずに‥。詳細は自身で体験し理解しましょう。
『構え』
心、頭脳、身体の最大限の能力を発揮する鍵は姿勢にある。常に姿勢を正して、最大限の能力を発揮できる体勢を維持し、様々な困難を突破しましょう。また、これからは、自身の天命とは何かを自覚することに努めて、それぞれの「心構え」を練り上げましょう。
『歩法』
絶対に居着かないこと。心が居着いた状態がいわゆる鬱やノイローゼと呼ばれる状態。また、身体が軽快なステップが踏めないようでは重用されません。そのためには、心と身体のどちらも居着かせない工夫を怠らないことが大切です。
『間合い』
他人との間合い間隔を磨くことは大事。「親切とお節介の違い」の理解が間合い感覚。このため、踏み込み過ぎず、離れ過ぎないことが肝要。「軒先を貸したら母屋を乗っ取られた」という例え話は、この間合い間隔の欠如が原因。自分なりのちょうどよい間合い間隔を掴みましょう。
『入身』
問題が発生したら、逃げずに素早く入身すること。逃げて下がるほど負けに近づくのは武術界の常識です。
『転換・転身』
問題に応じて柔軟に対応すること。真っ直ぐ対応してダメなら引いてみる。引いてダメなら回してみる。回せないなら自分が回れ。時と場合によっては、「回答を出さない回答」も一つの回答。常に柔軟な姿勢が必要。しかし、ベテランになり実力も備われば、「押さば押せ、引かば押せ」(相撲の極意)で攻め続けることもよいと思います。
『技』
力を使わずに仕事するのが理想。そうなるまでは、楷書の段階なので、きっちりと正確に誤りのないよう気を抜かずに仕事すること。最終的には、意識せず、ぶつからず、サラサラと流麗な仕事を目指しましょう。
『残心』
仕事の最終チェックは怠らないこと。これは、答案用紙の再チェックと同じことなので、最終的にミスをすればその仕事の意味がなくなることもあるので注意しましょう。
『見切り』、
自身に全く手落ちがなく、何の因果か分からない場合でも、様々な不幸が廻ってくる場合があります。厳密に言えば、これも本人の業(ごう)なのですが、なかなかそう思えないことも多いですよね。このような場合は、いくら考えても結論はでませんので、ある程度のところで「見切る」ことができないと自身を傷つけてしまいます。
しかし、人のせいにしては絶対ダメ。消えかかっている業に新たな業を付け加えることになります。
自身に恥じるところがなければ、「今回、自分自身、若しくは家族等関係者の様々な思念・行動・因縁・因果により、このような事態に陥ってしまったが、これもいったん起こってしまえばその悪因が消えてしまう証拠だろう。これくらいで済んでよかったな~。自分はなんてラッキーなんだ(笑)」と思って、それ以上深く考えないようにしましょう。これも大切な見切りです。
「何かあるのが人生」です。
困難がふりかかってきたら、びくびくと臆病になるのではなく、これも合気道の修行だと思って、『この困難をどう料理してやろうか!!』ぐらいの気持ちに切り替えて今を乗り切るのです。
そして最後が『気力』!
この『気力』が一番大事です。
そして、この気力を養う方法は、いつもやっている『呼吸法』。
人生を生き抜くための武器はすべて与えてあります。
卒業する皆さん。
今まで学んだことは決して無駄にならないと信じています。
それぞれが、より良き人生を歩めることをお祈りいたします。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
合気道元徳会道場長 小谷達也
【リンク】
◇合気道元徳会(西都道場)
◇「合気の舞」- 合気道元徳会道場長コラム
◇Youtube「Aikido Gentokukai」チャンネル